その笑顔が見たい
その男性は社長は社長だけど、以前、聡が話していた社長ではなかった。
いや、葉月を助けてくれた人には違いない。
結婚がどうこうとなっている男性ではないようだ。
あれからせっかくだからと円香さんの家族に食事に誘われた。
葉月は電話での俺の様子がおかしかったからとあの後すぐに仕事を切り上げ、エントランスで待っててくれたらしい。
衝動的に動いてしまった自分に自己嫌悪に陥っていたけれど、紗江とのやりとりで滅入っていた気持ちに上書きされていた。
それは少しだけ気持ちを軽くする。ゲンキンなものだ。
訪れたのは庶民的過ぎず、高級過ぎない日本食の店だった。
子供づれということで個室に通された。
「飲めるんだろ?」
勧められた日本酒は緊張のため、味なんてわからない。
「緊張しなくていいよ、楽にして。っていうのも無理か。あんな衝撃的な初対面は初めてだったよ」
この人、佐川(さがわ)さんまで俺をイジるのか。
車の中で散々円香さんにはイジられて来た。
助けを求めようと葉月を見るが、窓の外に顔を向けたままクククと笑っているばかり。
笑い顔を見せないようにしてそっぽを向いているようだが、窓ガラスにしっかりと映ってた。
その笑顔すら愛おしくて、守りたくなる。
この数年、この笑顔を守ってくれてたのは他ならぬ、この二人だった。
葉月と円香さんが再会したのは葉月が消えてから4年後。
すでに事業を起こしていた佐川さんに力を借りて、葉月を探していたそうだ。
ツテを駆使して見つけ出した葉月を見て、円香さんはぎょっとしたと言う。
「ケバい化粧して、下品な服着て、髪の毛なんて錆びてたんだよ」
「錆びてる?」
「変な染め方して、キンキンに光ってたの。今度、写真見せてあげる」
円香さんの話し方がおかしいから重い雰囲気にならないけれど、その頃の葉月の苦労は並大抵のものじゃないと物語っている。