その笑顔が見たい

宮崎エリカとその同僚だった。確か、この同僚は桜木の課だったはず。
僕はチラッと視線を合わせた後、「どうぞ」と言う一言だけでそのまま食事を続ける。

「桜木さん、お疲れ様ですぅ」

桜木にも媚を売る宮崎に「お疲れ様」と爽やかに笑顔を送る桜木は俺とは正反対に愛想がいい。
桜木の隣にはエリカの同僚が座ったが、僕には会釈だけで桜木を見て頰を染めていた。
桜木が好きなのか。人のことになると洞察力が鋭く反応する。

なら、宮崎はこの子を都合よく引っ張って来たってわけだな。
専属アシスタントといい関係を築かなければいい仕事はできないと言われているけれど、俺が理想としているアシスタントとはかけ離れている宮崎とは『いい関係』を築くつもりは毛頭ない。


プライベートになればなおさらだ。
昼休みはプライベートに近いものがある。
この時間まで一緒にいたいとは思えないので、俺は食べるスピードを少し早め、誰よりも先に食べ終わる。
宮崎や同僚の話をまともに聞いて返事をしている桜木はまだ半分以上食べ残っていた。


「お先」

桜木も他の二人も一斉に俺に視線を向ける。


「え、翔ちん、もう食べ終わったの?」


「ああ」


二人が隣に座ってから聞くだけに徹していた俺は「ごゆっくり」と言って食器の返却口へと向かう。食器の分別はせずにそのまま返却口へ置くだけなので「ごちそうさまでした」とトレイを置くと「ありがとうございました」と言う返事が聞こえてくる。


調理場から手だけが出て来て、食器をサッと片付けるので「声」しか聞こえないが、いつも元気に返してくれるその「声」が僕はお気に入りだった。


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