その笑顔が見たい

「彼女も葉月ちゃんだった。葉っぱに月」

葉月と同じ漢字だな。

「フルネームはね、本木葉月ちゃん」

桜木から出た名前に動きが止まる。


「本木、葉月?」


「って、書いてあったよ」


「…うそだろ」


ガタっと派手な音を立てて立ち上がる。
桜木が驚いて口を付けていたビールをこぼしながら「どうしたの?」と、慌ててる。


「食堂に行ってくる」


「や、待って。翔ちん、もう食堂はとっくに終わってるから」

腕時計を見ると八時半を過ぎていた。


「あっ…」

ため息をつきながらイスにどさっと腰を下ろした。
明日は土曜日。休日だ。
今すぐにでもあの彼女が葉月か確かめたい。

「桜木、ちょっと電話してきていい?」


「ん?構わないけど…」


答えを聞く前にスマホを片手に店の外に出る。

聡の番号を呼び出す手が汗で湿っている。
聡、出てくれ。
呼び出し音が鳴ってる間、前髪を搔き上げる。

今の所、葉月との接点は聡しかいない。
思いが通じたのか、聡はすぐに電話に出た。


「もしもし」


「聡?葉月ってさ、うちの会社の食堂で働いてるの?」


「はっ?なんだよ、突然」


「いや、今日、会社の食堂で同僚が『本木葉月』って女性に会ったから」


「ん〜、確か事務職って言ってたと思うんだけど、職場、変わったのかな」


聡の答えはあやふやで何も解決しなかった。
落胆していることを悟られないように、聡に返事をする。


「…わかった。突然、悪かったな」


「いや、いいよ。葉月に会いたい翔太の気持ちもわかるから」


「そういうんじゃ…」


聡に図星なことを言われ、徐々に冷静を取り戻す。


「葉月となるべく早く会えるように言っておくよ」


「ん、サンキュな。じゃ」


月曜日まで待つしかないようだった。
その後、席に戻った桜木は「わかった?」と聞いてくる。

「ううん」と首を横に振ると「そっか」と素知らぬ顔をして、枝豆を食べていた。
葉月のことで頭がいっぱいになっていることを見透かされている。

この後、うわの空でばかり返事をすることが多くなり、桜木にため息をつきながら「もう帰ろう」と言われるくらい葉月のことで頭がいっぱいだった。





< 46 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop