その笑顔が見たい

黙ったままの葉月の背中が小さく震えているように見えて、何を言っていいか、どうしたらいいか戸惑う。

「もういいよ、葉月が話したくない事は聞かない。今は?今のこと話して」


それから今どんな生活をしているのか、お互いに報告し合った。
その時はもう葉月の声は明るくなっていた。
葉月はおじさんの家からは出て、やはり一人暮らしをしているという。
だから職場で出る食事がありがたいとも。

「今の職場はいつから?」

聡には事務職だと聞いていた。なのになぜ調理場の仕事をしているのか。

「今年になってすぐ。働いていた人が病気で療養することになって、すぐに変わり手がみつからず臨時で私が入ったの。今は派遣といっても派遣会社に就職できて派遣社員のコーディネートのお手伝いをしてるんだ」


「あー、だから聡は事務職だと言ってたのか。今年の初め?四ヶ月も前に俺のこと見つけたの?」


「ううん、翔ちゃんを見つけた訳じゃなくて…」


そこまで言うとクスッと意味深に笑う。


「なんだよ」


「翔ちゃんね、調理場の王子様なんだって」


今度はプフフフと遠慮なく笑い始めた。


「はぁ?」

「私が派遣に来る前に、うちの派遣さんと社員の女性がトラブルになった時、優しく声をかけてくれたイケメンを王子様と呼んでいたの。その王子様はなかなか食堂に来ないから、現れた日はみんな嬉しそうに話していた。でね、どうしても感謝の意を表したくておまけを付けてるって」


そこまで聞いて「あっ!」と声を上げる。


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