その笑顔が見たい

葉月がアイスを食べ終わる頃を見計らい、ローテーブルにコーヒーを置く。
甘党の葉月には砂糖とミルクをたっぷりと。
俺の持っているブラックコーヒーを見て

「もうブラックでも飲めるよ」

「あ、そっ!じゃブラックにする?」

カップを取り替えようとしたら、ダメダメと交換させなかった。
コーヒーを一口飲んで、カップをテーブルに置く。
葉月はベッドを背もたれにし、俺はベッドの上であぐらをかいた。

葉月が背を向けるように座っているから表情は見えない。
この座り位置は、偶然なのか、これから話すことは顔を見られたくないのか…
あえて、位置を移動させることはしなかった。

少しの沈黙。
ゆっくりと葉月が話し出す。

「聡から聞いたでしょ?お父さんが保証人になっちゃったこと」


「ああ」


「だから学校に行けなくなっちゃって辞めた」


聡から聞いているのとニュアンスが違う。
葉月は父親に自らついて行ったと聞いている。


「働いて、お父さんの力になりたかったの」


「うん」


「でもね、高校中退の女の子が働けるところなんて少なくて、ましてや給料が高いところなんてほとんど見当たらなかった」


「…」


「だからお酒を出すところで働いたんだ」

遠回しに言うが、酒を出すところと言ったって居酒屋からキャバクラまである。
葉月は唇を噛み締めたまま、何も言わなくなった。
いつしかコーヒーは湯気が立たなくなり、一度口をつけただけで冷めてしまった。



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