添い寝は日替わり交代制!?
「こはちゃん?
 もう寝てしまいましたか?」

 ベッドに入るのはかなり遅くなってしまったけれど、昼間に寝ていた心春はどちらかと言えば眠れない。
 ましてやあんなことを言われた後で……。

「……起きてます。」

「そうですか……。」

 ベッドの中で手が触れてその手がつかまれた。
 手をつながれてトクトクと温かい気持ちが広がっていく。

 思えば手をつなぐなんて珍しかった。
 いつも体を覆うように抱きしめられるか、はたまた何日か触れても来てくれない時もあったっけ。

 そのことを悩んでいたことが遠い昔のように思える。

「今日、帰った時に部屋の明かりがついていて、夕食も用意されていて大変嬉しかったです。
 私の母は自由な人なので家にはあまりいない人でした。」

 前に急に来た貴也さんのお母さん。
 確かに自由そうな感じだった。

「だからでしょうね。
 こはちゃんとの時間は私も人だったのだと思わせてくれる癒しの時間でして……。」

「貴也さんは人ですよ。」

 思わず笑ってしまった私に貴也さんも微笑んだ。

「やっと笑いました。
 私はこはちゃんに笑っていて欲しいです。
 私も幸せな気持ちになれます。」

 こちらの胸が痛くなるような寂しそうな微笑みを向けられてズキリと鈍い音を立てた。
 そのまま「少しだけ」とささやかれて抱き寄せられた。

「離したくない。」

 貴也さんの掠れた声が胸を痛くさせて「私だって離れたくないです」と本音をこぼれさせた。

「うん。ごめん。ごめんね。」

 今一度、抱き寄せらて発せられた言葉は貴也さんというよりも小さな子どもみたいで、私も小さな子どもみたいに「行っちゃヤダ」と言って泣いた。



 朝起きると貴也さんの姿はなくテーブルにメモが置かれていた。

『昨晩はすみませんでした。
 こはちゃんを離したくなくて気持ちが急いてしまいました。
  こはちゃんの返事を待ちたい気持ちは変わっていません。

 今日は早く行かなければならない仕事があるため先に出ます。
 帰りが遅くなるかもしれません。
 寝ていてください。必ず帰りますから。』

 几帳面な文字の羅列。
 ただそれだけなのに温かい気がしてそっと紙にキスをすると大切にしまった。



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