イジワル副社長の溺愛にタジタジです
少し不安を抱えながら、十五階建の自社ビルを出た。
玄関には黒塗りのレクサスが待ち構えている。


「副社長、どちらに?」

「『東郷(とうごう)百貨店』に行ってくれ」


東郷百貨店は、我が社の売場の中でも高いシェアを誇る。


「視察と、挨拶をしてくる。ちょうど昼だし飯も済ませてくるから、帰りは十四時に頼む」

「かしこまりました」


なるほど、ランチも兼ねて視察もしようということなんだ。
ただご飯を食べに行くだけではないことに感心する。


東郷までは車で十五分。
一番近い販売店でもある。

車を降りると、他の客と同じように正面玄関から入っていく。
玄関には華やかな制服を纏った受付嬢が丁寧に頭を下げてくれて、恐縮してしまった。


化粧品売場は一階。
かなりの面積を占めていて、大手の競合他社もほとんど出店している。

ところが彼はそこには行かず、エレベーターホールに向かった。

挨拶をするとも言っていたので、担当者のところに行くのかもしれない。
でも、いつもはアポイントを取ってから来るのに、そんな電話をした覚えはない。
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