イジワル副社長の溺愛にタジタジです

慌てて彼の手を振り払うと、「あはは」と笑いながら部屋を出ていく。


「このっ、チャラ男……」


私がボソリとつぶやくと、「蒼井、早くしろ」なんて、さっきまでとは違う声色で私を呼んでいる。

早くしなかったのはあなたでしょう？

会議はあと三分で始まる。
私は沸々と湧き上がる怒りを呑み込んで、彼に続いた。


このチャラ男、もとい副社長は、無気力に見えるくせして仕事はできる。


「それで、マーケの意見は？」


会議で鋭い意見をズバズバとぶつけ、担当者がタジタジになるのはいつものこと。
今日は、発売予定の口紅についての話し合いだ。


「すみません。データ不足です。すぐにリサーチします」

「甘いな。化粧品のトレンドなんて次々と変わっていく。他社の後手に回ったらすぐに足元すくわれるぞ。蒼井、アレを」

「はい」


私は本城さんから準備しておけと言われたリップグロスについての資料を配り始めた。