お菓子の城


「えっ⁉︎」

いや待ってよ。

こんな感じなら私はまた行ってもいいって思ったし、そんな感じのことをボカして言おうと思ったのに。確かに2人っきりで出かけるのは初めてだけど、これなら上手くやれる。もし遠出がきついなら__そう、映画でもいい。映画館なら近いし、お互い洋画が好きだし、ムダに喋らなくてもいい。それか、カラオケとか?カラオケ喫茶は恥ずかしいから、ボックスなら行ってもいい。私の藤圭子を聴かせてあげたいし、あなたの藤圭子も聴きたい。きっと腰を抜かすほど上手いはず。それか、ご飯でもいい。たまに外食するくらい、ちょうどいい息抜きだし、だから___だから。

遠ざかる背中を見ていた私は、運転席に座り直した。

なにも言葉を返せなかった。

死ぬまで最初で最後。

それを望んでいるわけじゃないのに、私はなにも言うことができなかった。

それは__。

私は知っているからだ。

あの人の言う通りだと。

私は分かっているからだ。

これが、最初で最後なんだと。



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