あの日から、ずっと……
 明るい大通りから脇道へ入ると、一気に田舎の風景になり街灯もまばらになる……

 ちょっと、怖くなり早足で歩きだした。


 後ろから誰かの足音が近付いてくる…… 

 こんな時間に人が歩いているなんて……


 私は、益々怖くなり走り出した。


「おい! 待て!」


 この状態で、待てと言われ待つ人は居ない……

 後ろを振り向かず、そのまま走った。


 すると、ガシっと後ろから腕を掴まれ、

「きゃあ!」

 思わず悲鳴を上げてしまった。


「ばか! 俺だ!」


 そっと顔を上げた先に、息を切らせた泰知の顔があった。


「泰知兄ちゃん…… びっくりした……」


「はぁ…… 芽衣、こんな夜中に一人で帰る奴がいるか?」


「だってぇ……」

 私は、嬉しいのか? 怖かったのか? ぽろぽろと涙が落ちてしまった。



「井口と帰ったんじゃなかったのか?」

 私は大きく首を横に振った。


「泰知兄ちゃんこそ、立花さんは?」


「同じ方向の奴らと、タクシーで帰ったよ……」

「でも……」

「ごめんな…… 立花には言い寄られているけど、何の関係もないから…… 今夜きちんと説明した……」

「えっ。だって、彼女だって……」


「そんなはず無いだろ? だって俺は……」


 泰知が、優しく私の頭を撫でてくれた。


 私は、何でこんなにも、ほっとしているのだろう……

 泰知の手が、私の手を繋ぎ歩き出した……


「お前…… 俺を避けていただろう? 何でだ?」

「べ、別に避けてなんか……」

「俺、結構ショックだったんだぞ……」


「えっ!」

 私は驚いて、暗闇の中か微かに映る泰知の顔を見た。


「なあ芽衣……」

 泰知が何か言い掛けたのだが……


 道の先から、ゆらゆらと懐中電灯の光りが見えた。


「お爺ちゃん?」


「おお、泰知が一緒だったか? 良かった…… 心配でなぁ……」


「爺ちゃん、俺が居るから、あんまり心配するなよ」

 泰知の言葉に、爺ちゃんが笑いだした。


 私は、泰知に手を振ると爺ちゃんと並んで歩いた……


「お爺ちゃん…… ありがとう……」

 お爺ちゃんは嬉しそうに手を大きく振って、暗い夜の中に響く、田んぼのカエルの鳴き声に合わせて歌いだした。
 私も、じいちゃんと一緒に歌って歩いた……


 家に戻り、ベッドの上の可愛い目のクマのぬいぐるみを抱きしめると、自然と笑みが毀れた……

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