あの日から、ずっと……
再会
 出勤初日、私は大きな工場の社員の前での挨拶に緊張していた。


「宇佐美芽衣です。ご迷惑おかけする事が沢山あると思いますが、精一杯やらせていただきますので、よろしくお願いします」

 私はありきたりの挨拶をして頭を下げた。

 顔を上げた先の、大勢の社員の中の男性の姿に、私は息を呑んだ…… 

 一瞬、動けなくなった足が、皆の拍手に我にかえり後ろへと下がる事ができた。

 私は、さっきの男性の横顔をもう一度見た。

 間違いない! 泰知兄ちゃんだ…… 

 でも、どうして? 


 まさか、ここの会社の社員だったなんて……


 私の心臓は、バクバクと踊り出した。

 正直言ってイケメンだった。

 背も高くて凛々しく感じた…… 

 作業着でなくスーツ姿と言う事は、営業部か? 企画部か? 私の頭の中は、知りたい事で一杯なのだが、目の前のデスクには、沢山の資料が置かれた…… 


 そう、まず仕事を覚えなければ…… 

 研修期間中に概要や部品の事は覚えたつもりだが、いざ目の前にすると、実感が湧く…… 

 私は、英語が話せる事が唯一の武器であり、第二センタ―の、海外事業部へと配属が決まっていた。


 先輩である、浅井さんは私より三つ年上のサバサバした女性だ…… 

 主任の上原さんも、優しそうで仕事の出来そうないい男だ……


 私は浅井先輩に工場の中を案内され、メモを取りながら、工場内を見て歩くが、ついつい泰知兄ちゃんを探してしまう……


 第一センターの海外事業部のドアを開けた時だった。

 忙しそうに電話を片手にパソコンを操作している、泰知兄ちゃんの姿が目に飛び込んで来た。


「ここは、第一だから、私達とはあまり接点がないけど、海外事業部には時々お世話になるから、覚えておいてね…… でも、細かい事までは覚えなくていいから、大丈夫よ!」

 浅井先輩は、ニコリとほほ笑んでくれた。



 自分のデスクに戻ると、数枚の書類が差し出された……


「早速でごめん、これ全部英文なんだ…… 訳してくれないか?」

主任が申し訳なさそうに言った。

「はい」私は、慌てて資料に目をやると、英文を訳し主任に渡した。


「ありがとう……」

 主任は笑顔で受け取り何やら書き出すと、パソコンに向かっていた私に、さっきの英訳の資料になにやら日本語で書き、これをアメリカ支社にメールして欲しいと言った。

 そうか…… これが、これからの私の仕事になって行くのだと手に力が入った。

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