ヒトツバタゴ


「ねぇ、橘、パーソナルスペースって知ってる?」


俺に届けられなかった料理の話をスルーしてさつきが持ち出した『パーソナルスペース』の話



女子会で話に上がったのだろうか



そこまで俺を意識してくれるようになったってこと?



「知ってるよ」



暗に『近い』と言いたいさつきの性格はわかってるつもりだけど、俺は敢えて少しだけ保たれていたさつきとの距離を埋める




「さつきのパーソナルスペースが他の人より広いことも、俺がさつきのパーソナルスペースに入れることも知ってる」



さつきのことなら誰よりも知ってる



11年かけて詰めてきた距離は残りお互いの服の分だけ





すぐに駅に着いてしまってさつきに文句を言われる時間もなかったけど、怒るというより戸惑っているさつきは充分に俺を意識し始めたようだ




ただやり過ぎはさつきを怒らせることを知っているので、元の距離へと戻す



ゆっくりでいい



俺の存在が必要だと感じてくれれば







会社のロビーのエレベーターホールで吉野さんに会った



さつきと挨拶と土曜日の話を交わしていた吉野さんに吉野さんの料理を食べられなかった旨を伝えると一瞬驚いていたようだけど、すぐにいつもの微笑みで「良かったね」と返された




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