【短編】生け贄と愛
「こんばんは、お嬢さん。何か御用でしょうか」
優しくかけられた声に、ロゼは目を丸くした。
内側から漏れる光でロゼの姿は丸見えだ。
それなのに、この美しい青年は動揺もせず首を傾げている。
生まれて初めての反応に驚いてしまい、言葉が紡げない。
しかし青年は不信に思うこともなく、別の箇所に目を止めたようだった。
「失礼ですが、その怪我は?」
一瞬何のことを言われているのか分からなかった。
が、すぐに理解した。
手酷く切られている足首のことだろう。
青年の美しさと態度に呆然としていたロゼは彼に問われて我に返る。
幸か不幸か、痛みを思い出してしまった。
つ、と小さく声を漏らして顔をしかめる。
「あの、男たちに、追われていて。でも罪人ではありません」
ほら、と言って罪人の証が刻まれる二の腕を衣を捲ってさらけだす。
ただ白い肌がそこにあるだけだった。
「酷いことをするものだ。中へ」
青年が大きく扉を開く。
温かいオレンジの光がロゼの目に飛び込んできた。
夢なのだろうかと訝りながらも、彼女はおずおずと中へ入った。