【短編】生け贄と愛

 ゆったりとソファに腰掛ける彼の姿を見つめる。

ロゼの恩人ともいえる青年は不思議な雰囲気を醸し出していた。


「僕はシルヴェスタ。君の名前を聞いても良いかな」


そう尋ねられた瞬間、ロゼは恥ずかしさで真っ赤になった。

助けてもらって、手当てまでしてもらったのに、自分は自己紹介もしていない。


「申し訳ありません。私の名はロゼと申します」


カップを置いて左胸に手を当てると、シルヴェスタはそんなものは要らないと言う。


「傷が開くよ。ところで、僕はロゼさんと話がしたいんだけど」


ごくりと唾を飲んだ。

何を聞かれるのだろうか。


「その髪、どうしたの?ここいらでは嫌われてる色だけど。追われてるのはそれが理由かな」


やはりか、とロゼは俯く。

けれどシルヴェスタには話しても良いような気がした。



「その通りです。この髪と目は生まれつきで」


へえ、と軽く相槌を打っただけで特にそれ以上追及してくることはなく、シルヴェスタは優雅に紅茶に口をつけた。

何だか拍子抜けしてしまい、ロゼは不躾とは分かっていつつもシルヴェスタを見つめてしまう。

カップ越しに目が合い、微笑みかけられる。


慌てて目を逸らすと、彼はまた上品に笑い声をあげた。


「僕は気にしないから、いつものロゼさんでいてよ。一期一会ってよく言うでしょう。身分差とか考えなくて良いから、友人だと思ってくれると嬉しいな」


「そんな、それは」


「レディにこんなこと言うのは失礼かもしれないけれど、普通に振る舞って欲しいんだ」


まただ。

有無を言わせぬ口調。

ロゼはおずおずとシルヴェスタに笑いかけた。


「それでは、ロゼとお呼びください」


「うん。ロゼ、僕のことはシルヴェスタで」


満足げに彼はまた微笑んだ。

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