【短編】生け贄と愛
シルヴェスタの話は本当に愉快だった。
ロゼの紅茶好きに理解を示してくれ、自分も紅茶が好きなのだと言って色々な種類の紅茶を持ってきてくれた。
彼の生まれはこの町ではないが、両親と共にこちらに移住してきたらしい。
割に裕福な家であったため、様々な町を父親と見てきたそうだ。
シルヴェスタたっての希望で敬語を外したロゼは、目を輝かせた。
「だからシルヴェスタは、美しいものを沢山知っているのね」
「美しいもの?」
シルヴェスタがロゼの言葉に首を傾げた。
ええ、と大きく頷く。
「花や空や鳥は美しいわ。私の髪の色は嫌われているけれど、鳥達はまさかそんなこと気にもかけないし。異なる土地に行けば、異なる花が咲くし木々が育つでしょう?」
「ああ、確かに」
納得したように微笑み、次にシルヴェスタは驚くべき事実を口にした。
赤色が毛嫌いされていない町があるらしいのだ。
「それ、本当に…?」
「ああ。というより、色がそんなに意味を持たないことが多いんだ。持っても良い意味だとかね。例えば、白は純潔とか」
ここほど潔癖に嫌ったり好んだりしている町はないよ、と彼は苦笑した。
行ってみたい、とロゼは強く思った。
自分の世界はやはり小さかったのだと実感した。
ロゼは痩せた手の指を組んで、ぎゅっと唇を噛んだ。
そこに行けば誰かが自分を必要としてくれるかもしれない。
「その町はどこにあるの?」
「二つ町を越えたところだ。でもそこまで確かな道は無いし、君一人じゃ無理があるように思う」
がっくりと肩を落としたロゼ。
道中、何が起こるか分からない。
そこに辿り着ける可能性を真っ向から否定されてしまった。
「私、その町へ行きたい」
「……拘る気持ちも分かるけど。隠れて生きることもできるんだよ」
「分かってるわ。でも、私、夢があるの」
「夢?」
強い眼差しで、ロゼがシルヴェスタに目を合わせる。
「こんなこと言うのは俗っぽくてはしたないことかもしれない。でも、私は私という人間を知りたいの」
この町で赤色の容姿はロゼという一人の人間の姿を隠してしまう。
いくら優しくたって、美しくたって、何をしようと忌み嫌われる存在なのだ。
「…私だって一度くらい誰かに愛されてみたい」
ロゼも無意識にか呟いた言葉は、ひとえに彼女の願いの重さを語っていた。
生まれてから愛されたことなどない。
教会に捨てられたのも、この容姿だからだろう。
神父に感謝すべきだとは分かっていたが、ひきつった顔で接する彼にロゼへの愛情などあるはずがない。
幼い頃からそんなことは分かっていた。
─しんぷさま!
呼びかけると大きく揺れる肩。
─あの子は悪魔の子だ。
─見目は美しいが、それも悪魔ゆえなのでしょうね
─可哀想だが、何て恐ろしい
夜に漏れ聞こえた、大人たちの声。
膝の上で拳を握り締めるロゼの前で、シルヴェスタは何か考えるような顔をして座っていた。