【短編】生け贄と愛
「山を越えるには山賊もいるだろうし、危険だ。君は男たちに襲われてきたと言ったね?それでも行きたいと言うの?」
シルヴェスタの問いに、ロゼは真剣な表情で頷く。
彼のアメジストに自分が映っている。
薄汚れた白いワンピースを着た女だ。
「ありがとう、シルヴェスタ。こんな、良くしてくださって…」
「待って、ロゼ」
ソファから腰を浮かせたロゼをシルヴェスタが引き止める。
「こんな夜中に行く必要はないよ。ところで、提案があるんだけど」
「提案」
「町へは僕が連れて行ってあげよう。ただし条件がある。その酷くやられた足首が治るまで、ここにいること」
出された条件にロゼは息を飲んだ。
シルヴェスタにとっては何のメリットもない提案だ。
「シルヴェスタ、どうして」
「言っただろう、僕は一人が長いって。こんなに楽しく誰かと話したのは久しぶりだ。僕にも君にも良い案だと思うけど、どうかな」
「どうかなって…私は、本来貴方と一緒にいても良い人間じゃないのよ」
貴族階級の青年と、悪魔と呼ばれる平民の娘。
結びつくはずのない縁だった。
「僕の我が儘だから、どちらでも良い。どうする?」
悪戯っ子のような顔で彼が問う。
こちらは頷くしかない。
「ありがとう、シルヴェスタ」
涙が溢れそうになりながら、ロゼは深く頭を下げた。