【短編】生け贄と愛
次の日の朝、目を覚ましたロゼは起きてから数秒、自分がどこにいるのか全く分からなかった。
いつものとは比べ物にならない柔らかい天蓋つきベッド、しかもそこから半透明のレース織りの布が垂れているし、室内の装飾は一目で上質と分かるものばかり。
しかして悪趣味でない品のあるデザインは、並大抵でない位の高さを表しているようだった。
ベッドの向かいの壁側に置いてあるクローゼットの扉に見慣れたワンピースがかかっているのを見て、ロゼはようやっと自分の状況を理解した。
──そうか、私。
男たちに追いかけられて森に逃げ、たどり着いた館の主であるシルヴェスタと話して紅茶を飲んで。
魅力的な町の話を聞いた。
そして交換条件として怪我が治るまでここに留まることを約束した。
ロゼの着ていたワンピースはこの家と全く釣り合っておらず、どこか滑稽だった。
いつの間に洗濯したのやら、綺麗になってはいたが。
それでもロゼが今着ているネグリジェの方がよほど綺麗だ。
母上のものなんだ、と言って貸してくれたのは良いものの借りても良いのかと未だに緊張してしまう。
早いところ着替えてしまおうとベッドを抜け出してクローゼットに近づくと、ワンピースにメッセージカードが添えてあった。
「良ければクローゼットから好きなものを選んで着てください」と書いてある。
シルヴェスタの字かどうかは分からないけれど、一人暮らしと言うなら彼なのだろう。
ロゼは少し悩んでからクローゼットの扉を開けた。