【短編】生け贄と愛
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 ロゼが館に来て一週間が経った。

怪我の具合は栄養のある食べ物と清潔な環境で良くなりつつあり、包帯できっちり固定していなければ楽に歩くのがままならないほどだった足首は、普通に歩けるまでに回復した。

休暇をとらせている使用人たちは勿論帰ってこないので、家事はロゼが担当している。

シルヴェスタはロゼの作る料理が新鮮なようで、毎食楽しそうに食べていた。


「今日は、牛肉の赤ワイン煮込み」


シルヴェスタが気まぐれに買ってくる食材を使って料理をするのは楽しかったし、彼も美味しそうに食べてくれるので作り甲斐がある。

貴族の館というのは妙なもので、地下にワインセラーがあった。

彼自身はワインは飲まないが、彼の父親が好んでいたようだった。

一概にワインといっても様々な味があることをロゼはこの二週間でよく知った。


「ロゼは料理が上手いね」


「ありがとう」


そう言って、ロゼはそっと胸を押さえて目を閉じた。

彼の声は彼女の心を柔らかく揺さぶるのだ。

そうしていないと、どうしてか胸の高鳴りが酷くなってしまう。

外からさらさらという音が聞こえてきた。


どうやら霧雨が降っているようだ。


雨が激しくなれば薔薇も散ってしまうかもしれないな、とぼんやり考える。


「──ロゼ。今夜、夕食の後で部屋へ行ってもいいかな」


「え?あ、ああ……うん」


返事をしつつ、ロゼは内心不思議に思った。

シルヴェスタがロゼの部屋に来ることはそう稀ではない。

いつもノックをして彼女の許可を得てから入室するし、それから長く語り合うことも多かった。


「じゃあ、後で」


何か含みのある言い方をする彼に、ロゼはますます不安を募らせるのだった。


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