【短編】生け贄と愛
極上の血だった。
足首を手当てしたときに香った、あの血だった。
───だが。
「っ出て行け!!」
シルヴェスタが突然、牙を抜く。
焦ったような、狼狽えているような表情だった。
額に手をあて、立ち上がってロゼから離れる。
何を言われているのか、意識が朦朧としている彼女には分からない。
「早く出て行け!!お前の顔など見たくもない!!」
どこか懇願めいたシルヴェスタの声に、ロゼはふらふらと立ち上がる。
どうして、と口の中で呟いた。
顔を覆っていても、彼女が泣いているのが分かる。
はたはたと涙の落ちる音がする。
そんなことを分かってしまうのも嫌だった。
彼女の頼りない足音が消えるまで、シルヴェスタは顔を覆っていた。