【短編】生け贄と愛
左足を見ると、ナイフが突き刺さっていた。
そこから血がどくどくと溢れている。
男たちが汚いと一様に顔をしかめるのを睨みつける。
「顔は綺麗だからなぁ。売り飛ばしゃ金になる。殺されるより気持ち良い思いできるだろ?」
先頭の男がロゼの顎をぐいっと持ち上げた。
どこに売り飛ばされるのかなど考えたくもなかった。
「どこぞの貴族様の慰み者になった方が良い暮らしができるぞ」
下品な笑顔。
「貴方たちに利用されるくらいなら殺された方がマシよ!」
そう叫ぶや否や、男の顔がさっと怒りで朱に染まる。
手が振り上げられ、ロゼはぎゅっと目を瞑った。
しかし、いつまでも痛みは襲って来ない。
代わりに、ぐしゃりという鈍い音が聞こえた。
震えながらも、目を開ける。
「俺のものに触るな」
ロゼの前に、この二週間で見慣れた背中が立っていた。
低い声で威圧するように男たちを見回している。
「どうして…」
声に反応したようだったが、背中の持ち主はちらりとこちらを見ただけで目を伏せた。
ぐしゃりという音の出先は、彼の足元だったらしい。
先頭の男が頭を踏まれて伸びていた。
「何すんだ!あんた奴隷商人か何かなのか!?」
仲間の容態を心配した後ろの男が怒鳴る。
「だったら分かるだろ!こいつを売れば金が、」
その先を言うことは許されなかった。
シルヴェスタが男の顔に蹴りを入れたのだ。
「黙れ。俺は──」
ロゼが息を飲む。
「こいつと、契約している」
シルヴェスタはそれきり何も言わず、敵を睨んだ。
恐れをなした男たちが次々に襲いかかってくる。
しかし、シルヴェスタに敵うはずもなく。
皆揃って片付けられてしまった。
始終、ロゼを守るように立っていた彼が振り返る。