【短編】生け贄と愛
化け物、という呼称には慣れている。
しかし、シルヴェスタは納得出来なかった。
シルヴェスタの種族─ヴァンパイアの主食は血だ。
食事は人間にとっても大切な行為のひとつだが、彼等にとってもそれは同じかもっと重大な意味を為していた。
人間は米や小麦を食べなくても、他のもので代用できる。
つまり何でも食べられる。
だが、シルヴェスタ達は吸血以外に自らの命を維持する術を持たない。
人間と同じものを口にし、味わうことは出来ても栄養に変えることができないのだ。
シルヴェスタはその点で、化け物と呼ばれ恐れられることに納得がいかなかった。
別段、人間と変わらないではないかと思う。
人間たちだって、生きるため、食べる為に罪もない動物たちの殺生をするではないか。
王族貴族に至っては不必要なほどに贅沢な暮らしをしている。
それなのに、何故その当人たちから指名手配をされねばならないのか。
シルヴェスタは暴飲もしていないし、無駄に吸い尽くしたこともない。
普通の食生活を営むことを許されない。
どうして許しを請わねばならないのか。
納得がいかなかった。
何度もシルヴェスタを殺すために騎士団や自警団が館に送り込まれてきたが、全て彼が駆除をした。
正当防衛だと思っているくらいだ。
人間たちより身体能力の高いシルヴェスタに物理で挑もうなどと愚かしい考えを持つ者はいつの時代にもいるものだ。
長い時を生きてきた彼にとって、襲撃はもう慣れ親しんだ儀式のように思えていた。