【短編】生け贄と愛

 そんなことはともかく、と血に濡れた青年は足元の女をまた見下ろした。

吸い尽くしはしていない。

貧血で気を失っているが、またじきに目を覚ますだろう。

それまでに町のどこかに放っておかなければならない。

シルヴェスタは真面目な性格だった。

森に捨てたりはしないというのが彼の中の堅い掟だ。

見目の良い自分に惹かれる女は多い。

町に出てもシルヴェスタの本性を見破る者はいない。

生きるための道具の一つとして、吸血族は美形揃いとほぼ決まっている。

少し尖りすぎている歯を除けば、町に出たときのシルヴェスタはただの色男。

だからこそ食糧を選り好みできるのだが、如何せん、彼は人間が好きではなかった。


食糧としては別にして、彼らの理不尽さにほとほと愛想を尽かしそうになっていた。


さて、と溜め息を漏らす。

この女をどうしたものか。


今はもう夜だ。夜のうちに帰しておくのも良いが、そうすると魔物に拐われたと騒ぐかもしれない。

朝、シルヴェスタの顔を見せておいて、ワインに混ぜた睡眠薬で眠らせてから帰すのが良いかもしれない。


ううむ、と唸っていると。


「─誰かな」


屋敷の敷地内に、誰かが入ってくる気配がした。



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