私の二人の神様へ
そんな土曜日、一人で参考書と睨めっこしているとチャイムが鳴った。
音を立てないように、そろりそろりと玄関に向かい覗き穴を覗くと、榊田君の姿。
今日も無理だと断った。
昨日、彼はいつも通りそっけない声でわかった、と言っていたがとうとう来たか。
もう、私が榊田君を避けているのは明々白々。
ドアを開けて、彼を傷つける言葉をまくし立てて終わりにしよう。
それが彼のためで、私のためだ。
だけど、ドアノブに触れることさえ私はできなかった。
また、そろりと覗き穴を覗き込むと、彼はいなかった。
その途端、ほっと胸を撫で下ろした。
もう十二月で、キッチン続きの玄関は冷え切っていて、手も悴んでいるのに心臓のドキドキで身体が熱い。
このドキドキは嫌なドキドキだ。
そんなドキドキはなかなか消えなくて、こたつに戻ったけど、再びペンを持ちことができなくて私は寝転がった。
今日は一段と冷え込んでて、北風がびゅうびゅう吹いている。
そんな音をしばらく目を閉じて聞いていると、こたつに長時間いたせいか喉がカラカラだ。
乾燥した肌に化粧水を付けながら、冷蔵庫を開けるとオレンジジュースがない。
私がオレンジジュースを切らすなんて、めったにありえない。
オレンジジュースを切らしたのは仁くんと喧嘩した時と、佳苗さんの存在を知った時、そして今回。
いい加減、逃げるのはよそう、そう思うのに。
私は結局、自分が可愛くて仕方がない人間なんだ。
深いため息をこぼす。
自分のことばっかりで相手の気持ちが酌めない。
そんな自分を未だに変えられていない。
気を遣うようにはなったけど、最後は自分を優先してしまう。
冷え切った外に行けば、頭がすっきりするかもしれない。
この煮え切らない思いをどうにかできるかもしれない。
冬は自分の存在がはっきりとわかるから好きだ。
冷たい風を受けてると、輪郭がはっきりして心を落ち着けられる。
決断ができる。
オレンジジュースを買いに行くついでに、決意を固めよう。