浅葱色の忍

山崎烝

今夜は、屯所で過ごすと出て来たのに


屯所から、勇から、逃げ出してしまった




こっそり城に戻り
与えられた自室で、寝ようと向かう途中


慶喜の姿が見えた





このまま、慶喜のところにいようかな…



どうせ、居場所がない





ジッと見てたら、見つかってしまい




「散歩?」




声を掛けざるを得なくなった




「そうだが?烝…帰って来てくれたのか?」


「まあな」



適当に笑っておく

どうせ、愛想笑いとバレるんだから



「仲直り出来なかったのか?
長く仕事をさせているから、怒られたか?」



予想外に、慶喜が弱々しく俺を見た



「慶喜のせいじゃないから!
心配するようなことじゃない!
ただ、ちょっと…」




言い掛けた言葉を飲み込んだ





居づらい






なんて、言ったら

慶喜は、帰って来いと言いそうだから







「烝 近藤と話をした方が良い!
お前…言葉足らずというか
肝心なことは、黙って言わないから
何か誤解を招いているんだ!」


「は?俺が悪いみたいに言うな!」


「なら、近藤か?
アイツは、真っ直ぐな男だが
あまり廻りを気にしなさすぎる!
もしや、女だとバレたのか?」


「あはははははっ!」



夜だというのに大笑いしてしまった


だって、あまりにも的確に
俺と勇の事を言うから


「慶喜ちゃんと見てるんだ!?ふふっ
知らなかった
慶喜は、俺の事なんて興味ないと思ってた
それに、近藤さんの事も当たってる!」



俺がそう言うと

慶喜は、俺の目をジッと見つめ



「俺は、決められた相手だから
そんな理由で夫婦になったわけじゃない
烝が好きだからだ
好きだから、別れたが
別れたら、より一層好きに、なった
烝が困るから、言わなかった
烝は、俺をずっと見てくれていたが
俺の気持ちには、気づいてくれなかったな」




嘘…   



慶喜が、俺を?




忍だからじゃなく

元側室だからじゃなく

特別な相手として、見てた?






「ほら 全然気づいてない
でも、今のは聞き流せ
烝は、近藤に惚れているのだろう?」




//////////

「え、な、なんで!?」




「見ればわかる
だから、俺にこんな事言われたら
困るだろ?
そんな、茹で蛸のような顔してれば
俺が敵わぬことも承知している
近藤も烝を想っているだろ
局長と忍が、恋をして何が悪い
烝 遠慮などするな
もっと、自分が幸せになるために
人に迷惑をかけろ
俺が出来ることなら、言ってくれ」






< 99 / 264 >

この作品をシェア

pagetop