冬の恋、夏の愛
二十一時閉店のカフェに、滑り込むようにして入った。ショーケースのケーキは、クリスマスということもあり、残りわずかだったけれど、莉乃ちゃんはよろこんでくれていた。

閉店間際のカフェ。ゆっくり話す時間はなくても、誕生日にケーキを食べられるのがうれしい。莉乃ちゃんは、繰り返しそう言った。

「でも、いちばんうれしいのは」

そこまで言うと、真顔でオレをみつめた。恥ずかしくて視線をそらすと、「なに?」と聞いた。

「この夜に、寿彦さんがいてくれること」

「あ、そう……」

世の中に、オレよりも愛想がいいイケメンが、ごまんといるよ? と、莉乃ちゃんに教えてあげたい。

でも、オレを選んでくれたこと。本当は、すごくうれしい。

絶対、口には出さないけれど。

「そろそろ、帰ろうか?」

そらした視線を莉乃ちゃんに戻すと、あからさまに残念そうな顔をして「うん」と言った。

もしかして、誕生日プレゼントを期待していたのか? 申し訳ないけれど、大したものは用意していない。

カフェを後にして、桜木町駅から電車に乗り込んだ。横浜駅が近づくと、笑顔を添えて「ありがとう」をくれた。

「あ、これ……」

電車がホームに滑り込むようにして入っていくタイミングで、ポケットから鍵を取り出して、莉乃ちゃんに差し出した。

「え? 鍵?」

「オレの部屋、自由に使って?」

『好き』とか『付き合って』とか、言えない。そんなオレからの、意思表示……と言うか。

「ありがとう」

莉乃ちゃんは、戸惑いながらもそれを受け取ると、「またね」と言って、ホームに降り立った。

今日が、ふたりの始まり記念日。そう感じてくれたら、いいな。車窓を眺めながら、幸せな気分に浸った。





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