過保護な副社長はナイショの恋人
副社長の側まで行くと、フッと笑われた。

「別に走って来なくてもいいのに」

「だって……。いろいろと、恥ずかしくて」

「恥ずかしい?」

いぶかしげな副社長に、おずおず説明する。名前で呼んだことや、見知らぬ女性が副社長を噂していたこと。

そして、自分がその副社長の約束相手だったこと。その全てが気恥ずかしいと話すと、さらにクックと笑われた。

「たしかに、松谷さんって呼ばれたときは、一瞬誰だ?って思ったけど……」

「ですよね……。すみません、副社長」

気まずさいっぱいで謝っている間も、副社長は笑いを押し殺している。

こんなに笑った顔を見せる人なんだ……。プライベートも仕事のときと同様、クールな感じかと思っていたのに。

「じゃあ、お互い名字じゃなく名前で呼ぼう。一翔でいいよ」

「ええっ⁉︎」

副社長を名前で呼ぶなんて、それこそ照れくさすぎる。おおげさに反応した私を、彼はしかめっ面で見た。

「そんなに驚くことじゃないだろ? プライベートでは、そう呼ぼうって言ってるだけだ」

「は、はい……。でも……」

“一翔さん”だなんて、恥ずかしくて簡単に口に出せない。

「ったく、子供じゃないんだから、いちいち大きく反応をするな。行こう、咲実」

呆れた顔の副社長は、私の手を取るとエレベーターに向かって歩き始めた。
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