冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
「キャシー様なりの親切心で教えてくれたのよ。彼女は過去に婚約者に裏切られたそうなの。その時の事と私が重なって見えたんだと思うわ」
結果的に悪い方向に行ってしまったけれど、悪気が有った行動ではないと思う。
そう思っていたのだけれど、エレインに呆れたように一蹴されてしまった。
「ローナは相変わらず暢気ね。キャシーは大分前からレイに執着していて付きまとっていたのよ? あっさりと振られてしまった後もレイを諦められずに独身のままでいるくらいよ」
「え……そうなの?」
予想していなかった新事実に驚きながらレイに問う。
レイは不機嫌そうに答える。
「過去の事は全く記憶にない。今回の件で忘れられない女になったけどな」
「この通りレイには全く相手にされていなかったのよ。一方的な片思いでレイに想われているローナを逆恨みしたんでしょうね。彼女は噂しかしらないからレイが心変わりしたと思っていた。それを知らせてローナを傷つけたかったんだわ。とにかく器の小さな女よ。レイに選ばれなくて当然だわ」
エレインがうんざりと言うと、王太子殿下が苦笑いになった。
「エレインは手厳しいね。でもまあ最低の手を使ったけれど、結果的に彼女はレイにとって忘れられない女になった訳だ。憎しみの対象としてね」
王太子殿下はそう言うとエレインとティアナ様を伴い席を立った。
「後はレイとふたりでゆっくり話すといい」
「はい。ありがとうございます王太子殿下」
「こういう場ではサイラスと呼んで欲しいな」
「え……いえでも……」
レイとエレインはともかく私が呼ぶのはさすがに厚かましいと思う。
だけど王太子殿下は少し寂しそうな顔をしたから口を噤んだ。
「こういう立場だと本当の友人はなかなか出来ないんだ。君は信用出来そうだから友人になりたいと思ったんだよ。ティアナとも親しくして欲しいんだ」
ティアナ様と?
「そうね、ローナならティアナと仲良く出来そうよ。その包容力でティアナを包んであげて」
エレインが少しふざけたように言う。
私はティアナ様に目を向けた。
少女のように小さく華奢な女性だ。だけどその目には強い意志の力があった。
彼女はきっと王太子殿下の……。
市井で過ごした彼女にとってこれから大変な道になるだろう。
「ティアナ様、これからよろしくお願いしますね」
私には何の力もないけれど、少しでも支えてあげられたら。そう思いながら手を差し出す。
「ローナ様、ありがとう」
本物のティアナ様がはにかんだように微笑んだ。