きみは宇宙でいちばんかわいい
「あのね。わたし、人生で最高の日を聞かれたら、きょうって答えると思う」
どこまでも気高く美しいまま、ゆっくりと横を通り過ぎていくビッグ・ベンを見送りながら、なんとなく呟いた。
なんとなくでも、瞬間的に、強烈に感じた気持ちだ。
「きなこちゃん」
彩芭くんは、そんなわたしの何気ない言葉さえ拾いあげるように、優しいまなざしで、そっと顔を覗きこんでくれた。
「きっと、もっと最高の日が、これからたくさん来るよ」
なぜか、どこか、確信しているみたいな言い方。
そんな彼は、いきなりスマホを操作しはじめたかと思えば、画面をこちらに見せたのだった。
表示されていたのは、なにやら英語だらけの文字列で、つい頭の上にハテナを飛ばしてしまう。
「これ、日本行きの、片道チケット」
「え……」
「俺、4月から、また日本に戻ることにしたんだ」
ああ、ロンドンじゅうの、どんなに素晴らしい景色を見ても、こうはならなかったのに。
いまになって、急に涙があふれて止まらないのは、どうしてなの。
「また、いっしょに、いられるの……?」
「うん。また、よろしく、きなこちゃん」
うれしい、と伝えるので、もう精いっぱいだ。
彩芭くんは、涙の粒をまるごと吸いとるみたいに、ぎゅっとわたしを抱きしめてくれた。
幸せで、たまらなくて、背中に腕をまわす。
テムズ川のほとりは、どこまで行ってもきらめいていて、まるで、街全体から祝福してもらえているようだった。