170回、好きだと言ったら。

鼻と鼻が触れ合うまで顔を近づけた飛澤さんは急に黙り込んだ。


たったの数秒がとても長く感じたのは気のせいだろうか。震える自分の身体を抱きしめると、飛澤さんが「なあ」と呟いた。


「お前は言っていたな。俺に春威が喧嘩を売ったと。
あれは確かに事実だ」

「！　…嘘、じゃありませんよね？」

「今から俺の女になるヤツが何を言う？
一度決めたヤツには俺は嘘をつかない。それが男の通したい筋ってもんだ」



飛澤さんの女、その言葉に吐き気がした。
分かっていたはずなのに、こうなる未来を考えていた上で―…。


「春威が俺に喧嘩を売ったのは事実。
いつも喧嘩を見てばっかりだったアイツの実力を見てみたくてな、お前を人質に取ろうかと話を持ちかけてみた。
そしたら豹変したからコイツは面白いと考えてだな」