サヨナラ、大好きだった。
『どうした、渋木?
顔色悪いけど保健室行ってくるか』
『大丈夫です。自分で行けますから。』
勝手に気を使ってくるところに面倒くさい若手の教師だと心の中でつぶやき教室を出た。
一つ角を曲がったところで立ちくらみと吐き気に襲われ、しゃがみこんだ。
頭がガンガンして視界が歪んだ。
小さな声がきこえる。
目を開けるとカーテンの隙間から保健室の先生の後ろ姿が見えた。
白いフワフワのベッドに薬品の匂いがする。
起きていたら話しかけられると思い、寝たふりをした。
『はい、もともと貧血と伺っていました。
俺が声をかけるのが遅かったから、こんなことに。
俺の不注意です。以後、気をつけます。』
徹夜明けだから寝不足と貧血を同時に起こしてしまったのは私のせいなのに代わりに謝っている。
わざわざ親に小さなことでも全員の体調を聞いて回っているという噂は本当だった。
『ちょっと職員室に用事があるので、大神先生見ていてもらえますか。』
『ええ、次の時間に授業はないので大丈夫です。』
保健室から保健の先生が出ていき静まりかえった。
二人きりとか、勘弁してほしい。
私のいるベッドに向き直った。
『さてと、起きとるやろ?開けるで。』
カーテンから身を乗り出して話しを聞いていた為に、開けられた瞬間固まった。
起きていたことがばれて固まっている私に笑いかけた。
『元気になったか?』
『はい。気遣いありがとうございます。』
『倒れる前に気付かなくてすまなかった。
俺がもう少し早く気付いてれば。』
『寝不足と貧血は自分のせいです。
それより、どうやってここに私は来たのですか。
あの廊下の突き当たりにある担架ですか。』
『あぁ、そこまで頭まわらへんかった。
何よりいきなり倒れたもんやからこっちも驚いて。』
『…?説明がようわかりません。』
困惑していると、
『ここに座ってもええか?』
ベッドの横の椅子を指さした。
『ええ、どうぞご勝手に。』
立っているときより顔の距離が近い。
長い手が私の髪を撫でた。
『ふぇ、なん、何ですか。』
『渋木、寝癖ついてる。』
『うるさい、触らないで下さい。』
バクバクと何かが暴れて顔が紅潮するのがわかる。
先生に対してこんなに口が悪くなった事があるだろうか。
『ん?熱が上がったか』
額に手を置かれた。
少しひんやりしていて気持ちいい。
まだ、体が重たい感じがする。
『元より熱なんてありません。』
手を振り払った。
『熟睡してた時の方がええな。』
『どういう意味ですか?
てか、寝顔見たんですか。変態。』
『誰が変態や。
本当に素直やないな。
そんなにツンツンしてたら可愛くないぞ。
好きな人にも好かれへんよ。
せっかくの美人が台なしや。』
『…っ、セクハラで訴えますよ。』
『証拠無いから起訴なんて出来へんよ。』
くそ、この教師は結構強い。
何を言っても返される。
『好きな人なんていません。
恋なんてしたこともない。』
『…人生損してるな。
俺の初恋の話しをしようか。』
悲しそうに笑った。
『俺の初恋の相手は隣の家のお姉さんやったんや。
彼氏持ちやし、5歳も年上やから絶対叶わない恋やったけど毎日が新鮮で楽しいねん。
あの人の事をずっと考えてしまう。
それだけで、世界が色づいて見えてた。
どう?恋してみたくなった?』
『…別に。』
『強情やな。』
苦笑いをされて、少し心がズキンと痛んだ。
悲しさを隠してきたのを打ち明けたのに理解されなかったという悲しさが見えた。
『ちょっと眠たくなってきた、昨日は徹夜で採点しとったから寝不足や。
ちょっと横のベッド借りる。
保健室の先生帰ってきたら起こして。』
『はぁ、先生仕事放棄ですよ。』
振り返った時にはもう眠りについていた。
静かに寝息を立てて。
なんか、この人の声を聞いていたい。
そんな気がした。
さっきまでいなくなって欲しかったのに、
目を覚ましてほしいなんて思ったりして。
安らかな顔してる顔を覗きこんでみる。
なんかミルクティーみたいな匂いするし。
顔がものすごく近い。
触れようとしたら触れられる。
この唇や身体にも。
『どないした、俺の顔なんか見つめて』
優しげな声で囁かれた。
目が開いていたことに気付かなかった。
『いやぁーー!』
恥ずかしさに出たことのないような悲鳴が出た。
そして、倒れこんだ。
すると口をふさがれた。
『俺が襲ったみたいやろ、静かに。
何してたん。さっきも寝たふりしてたし。』
私が先生の上に倒れこんでいる感じになっている。
今誰かが来たら凄く危ない状況だ。
『え…何も。起こそうと思って。』
『は?俺の上に乗って言うことちゃうやろ。
保健室の先生帰ってきてへんやん。』
確かに言い訳には苦しい。
『決して何かしようと思った訳じゃ…』
まさか、触ろうとしたなんて言えない。
『ふーん、まぁええけど。
ちょっとぐらい寝させてや。』
と大きなあくびをした。
『ばれたらクビじゃないですか。』
『大丈夫。きっと渋木はバラさへん。
それより降りてくれる?
乗られてたら起きられへん。』
バラさないのは、バラしたら私が何かをしようとしてたことをバラすということか。
それと、直接的に自分の事もばれる。
『ふぅ、そろそろ帰ってくるか』
『大神先生お待たせしました。
あら、渋木さん起きてるじゃない。
もう大丈夫なの?』
『はい、もう大丈夫だと言っていました。
じゃあ、俺はこれで失礼します。
渋木を宜しくお願いします。
あと、渋木』
手招きをされる。
耳元でこう囁いた。
『その紅い顔治ってから教室来るんやで。』
その後、わざと保健室の先生に聞こえるように
『授業は調子良くなったらでええから』
と出ていった。
私は赤面して立ち尽くした。
急に担任面しちゃって。
先生の少し意地悪な部分を見つけてしまった。
『あら、顔が紅いわ。
熱かしら。でも、貧血なのに変ね。
大神先生って本当にしっかりしてて、優しいから生徒や先生構わず人気よね。』
今朝とは違う感情が芽生えてしまっていた。
顔色悪いけど保健室行ってくるか』
『大丈夫です。自分で行けますから。』
勝手に気を使ってくるところに面倒くさい若手の教師だと心の中でつぶやき教室を出た。
一つ角を曲がったところで立ちくらみと吐き気に襲われ、しゃがみこんだ。
頭がガンガンして視界が歪んだ。
小さな声がきこえる。
目を開けるとカーテンの隙間から保健室の先生の後ろ姿が見えた。
白いフワフワのベッドに薬品の匂いがする。
起きていたら話しかけられると思い、寝たふりをした。
『はい、もともと貧血と伺っていました。
俺が声をかけるのが遅かったから、こんなことに。
俺の不注意です。以後、気をつけます。』
徹夜明けだから寝不足と貧血を同時に起こしてしまったのは私のせいなのに代わりに謝っている。
わざわざ親に小さなことでも全員の体調を聞いて回っているという噂は本当だった。
『ちょっと職員室に用事があるので、大神先生見ていてもらえますか。』
『ええ、次の時間に授業はないので大丈夫です。』
保健室から保健の先生が出ていき静まりかえった。
二人きりとか、勘弁してほしい。
私のいるベッドに向き直った。
『さてと、起きとるやろ?開けるで。』
カーテンから身を乗り出して話しを聞いていた為に、開けられた瞬間固まった。
起きていたことがばれて固まっている私に笑いかけた。
『元気になったか?』
『はい。気遣いありがとうございます。』
『倒れる前に気付かなくてすまなかった。
俺がもう少し早く気付いてれば。』
『寝不足と貧血は自分のせいです。
それより、どうやってここに私は来たのですか。
あの廊下の突き当たりにある担架ですか。』
『あぁ、そこまで頭まわらへんかった。
何よりいきなり倒れたもんやからこっちも驚いて。』
『…?説明がようわかりません。』
困惑していると、
『ここに座ってもええか?』
ベッドの横の椅子を指さした。
『ええ、どうぞご勝手に。』
立っているときより顔の距離が近い。
長い手が私の髪を撫でた。
『ふぇ、なん、何ですか。』
『渋木、寝癖ついてる。』
『うるさい、触らないで下さい。』
バクバクと何かが暴れて顔が紅潮するのがわかる。
先生に対してこんなに口が悪くなった事があるだろうか。
『ん?熱が上がったか』
額に手を置かれた。
少しひんやりしていて気持ちいい。
まだ、体が重たい感じがする。
『元より熱なんてありません。』
手を振り払った。
『熟睡してた時の方がええな。』
『どういう意味ですか?
てか、寝顔見たんですか。変態。』
『誰が変態や。
本当に素直やないな。
そんなにツンツンしてたら可愛くないぞ。
好きな人にも好かれへんよ。
せっかくの美人が台なしや。』
『…っ、セクハラで訴えますよ。』
『証拠無いから起訴なんて出来へんよ。』
くそ、この教師は結構強い。
何を言っても返される。
『好きな人なんていません。
恋なんてしたこともない。』
『…人生損してるな。
俺の初恋の話しをしようか。』
悲しそうに笑った。
『俺の初恋の相手は隣の家のお姉さんやったんや。
彼氏持ちやし、5歳も年上やから絶対叶わない恋やったけど毎日が新鮮で楽しいねん。
あの人の事をずっと考えてしまう。
それだけで、世界が色づいて見えてた。
どう?恋してみたくなった?』
『…別に。』
『強情やな。』
苦笑いをされて、少し心がズキンと痛んだ。
悲しさを隠してきたのを打ち明けたのに理解されなかったという悲しさが見えた。
『ちょっと眠たくなってきた、昨日は徹夜で採点しとったから寝不足や。
ちょっと横のベッド借りる。
保健室の先生帰ってきたら起こして。』
『はぁ、先生仕事放棄ですよ。』
振り返った時にはもう眠りについていた。
静かに寝息を立てて。
なんか、この人の声を聞いていたい。
そんな気がした。
さっきまでいなくなって欲しかったのに、
目を覚ましてほしいなんて思ったりして。
安らかな顔してる顔を覗きこんでみる。
なんかミルクティーみたいな匂いするし。
顔がものすごく近い。
触れようとしたら触れられる。
この唇や身体にも。
『どないした、俺の顔なんか見つめて』
優しげな声で囁かれた。
目が開いていたことに気付かなかった。
『いやぁーー!』
恥ずかしさに出たことのないような悲鳴が出た。
そして、倒れこんだ。
すると口をふさがれた。
『俺が襲ったみたいやろ、静かに。
何してたん。さっきも寝たふりしてたし。』
私が先生の上に倒れこんでいる感じになっている。
今誰かが来たら凄く危ない状況だ。
『え…何も。起こそうと思って。』
『は?俺の上に乗って言うことちゃうやろ。
保健室の先生帰ってきてへんやん。』
確かに言い訳には苦しい。
『決して何かしようと思った訳じゃ…』
まさか、触ろうとしたなんて言えない。
『ふーん、まぁええけど。
ちょっとぐらい寝させてや。』
と大きなあくびをした。
『ばれたらクビじゃないですか。』
『大丈夫。きっと渋木はバラさへん。
それより降りてくれる?
乗られてたら起きられへん。』
バラさないのは、バラしたら私が何かをしようとしてたことをバラすということか。
それと、直接的に自分の事もばれる。
『ふぅ、そろそろ帰ってくるか』
『大神先生お待たせしました。
あら、渋木さん起きてるじゃない。
もう大丈夫なの?』
『はい、もう大丈夫だと言っていました。
じゃあ、俺はこれで失礼します。
渋木を宜しくお願いします。
あと、渋木』
手招きをされる。
耳元でこう囁いた。
『その紅い顔治ってから教室来るんやで。』
その後、わざと保健室の先生に聞こえるように
『授業は調子良くなったらでええから』
と出ていった。
私は赤面して立ち尽くした。
急に担任面しちゃって。
先生の少し意地悪な部分を見つけてしまった。
『あら、顔が紅いわ。
熱かしら。でも、貧血なのに変ね。
大神先生って本当にしっかりしてて、優しいから生徒や先生構わず人気よね。』
今朝とは違う感情が芽生えてしまっていた。