押したらダメだよ、死んじゃうよ

「誰しも望んだものが手に出来るわけじゃない。だから、こそ人は欲したものを手にするとき、歓喜する。君も喜べばいい。僕は祝福するよ。」


死にたいわけじゃないんだ。


「まぁ、この高さだからね。地面に打ち付けられれば頭蓋骨は破損、脳が飛び出てそりゃあ悲惨な姿になることは避けられないだろうけど。」


やっぱり、今日はやめる―――そう言おうとした時、男がわたしのスカートをぴらっと捲った。

あまりに唐突な行動に、喉元まで出かかった言葉がひゅんっと引っ込む。


「このダサいパンツが公衆の目前に晒されるのは僕が阻止してあげるよ。」

「ちょ……っ!」

「捲れ上がるだろうスカートは僕が整える。だから君は安心して―――」


男は一歩後ろに下がると、わたしの方へ手を伸ばす。
闇夜に白い手が浮かぶ光景は幻想的ですらあった。

そして、その手がトンッ――と、わたしの肩を押したと同時に


「飛べ。」


男はそうシニカルに笑った。

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