私たち政略結婚しました!~クールな社長と甘い生活~
私たちは、近所の定食屋で食事を済ませた。

ゆっくりビールでも飲みたいなと言ったら、
「俺、車で来てるの忘れてるだろ?」と恨めしそうに言われた。

こんどちゃんと奢るからと、また背中を叩いた。

「今日は、ここに泊まるの?」と智也。

「いいえ。帰るつもりだよ」と私は答えた。

私の部屋まで送ると言ってくれたけれど、遅くなるから大丈夫だと答えた。

私は、午後も祖父の家に残って作業をすることにした。

「じゃあ、俺帰るから」

そう言って車のキーを持って智也が部屋を出た。

出ていったと思ったのに、すぐに、智也は部屋の中に押されて戻って来た。


「どうしたの?」私は、智也がふざけてと思って声をかける。

智也が私の質問に答える前に、低く良く通る声が聞こえて来る。

「ここで何してる」誰の声だか姿が見えなくても分かった。

威圧するような声、周りにいるものを瞬間的に凍らせてしまうみたい。

地獄から魔王様が帰って来た。

あの、口から生まれて来たような智也も、あっけに取られて黙って立っている。

私は、段ボールを入れるために、いったん外に出した布団を袋から出しているところだった。


部屋に入って来た高陽さんが、私のこと見て顔色を変えた。

見方によっては、亭主のいない間に、昼中堂々と間男を連れ込んだ、いけない人妻のように見える。

私が説明する前に、智也が言い放った。


「何してるって。見ればわかるだろう?いちいち言う必要ない」

私は耳を疑った。

智也ったら最悪の態度で、高陽さんに向かってなんてこと言うの!

高陽さんの眼がいっそう厳しくなる。

おい、智也。

何で余計なことをするのよ。

昔からそうだった。

あいつの性格からすると、頭ごなしに一方的にものを言われたら必ず反発する。

でも、智也。

その人は義理のお兄さんだよ。智也。
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