私たち政略結婚しました!~クールな社長と甘い生活~


きっと大した用事なんてないだろう。
そうに違いない。

この人たちが、私に頼みたいことがあるなんて到底思えないもの。

そうそう。だから、落ち着いてと自分に言い聞かせる。

そうしてすぐにでも、ドアを蹴破って、逃げ出したくなる自分の心を落ち着ける。


「奈央さん、よく来てくれたね」

何度見たら気が済むのだろうと、言いたくなるほど深い瞳でじーっと見つめる彼。

長い腕がすっと伸びてくる。今度はなぜか、岩槻高陽に握手を求められた。

彼の指が手に触れ、ぎゅっと握られる。

ひいっ。と小さく声をあげた。

これまでも、私たち一族の端くれにいるものには、彼らは関心を示さなかった。

そばにいても、すれ違ったりしても、
声をかけてくるどころか、目も合わせてこなかったくせに。

それが、どうしてこの変わりよう。

私の手は、岩槻高陽の大きな手に、捕まえられたまま、引っ込められない。

重なりあった手のひらからじわっと熱が伝わってくる。

「あっ」

手を握られたまま、引き寄せられた。

ほんの目の前、まっすぐ彼の瞳に見つめられて、心臓が破裂しそう。

彼は、私の手を懐まで引き寄せてから言う。

「よく聞いて。
これから大事な話をするからね」

軽く手の甲を叩くと、岩槻高陽は
姿勢を正すように座り直した。



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