私たち政略結婚しました!~クールな社長と甘い生活~
「適当に材料を入れて煮ればいいから、鍋にしようと思って」
ヤングエグゼクティブが、土鍋を持って微笑んでいる。
高陽さんはどうやら、鍋そのものから買って来たらしい。
鍋を取り出した箱が脇に置かれている。
鍋はIH対応の新品みたいだ。
「美味しい寄せ鍋つゆ」を鍋に注いで、裏面にある美味しい鍋の作り方を熟読している。
どうやら、ヤングエグゼクティブは、鍋の具材を写真通りに並べて、火をつけようとしていた。
「エビが同じサイズのがなくて」
熟読していたのは、それが理由らしい。
”エビが手に入らない場合は”なんて書いてないか探してるんだろうか。
どこにも書いてないから、高陽さんは不満そうに、並べる配置をいろいろ試している。
赤い色がない分、言われてみれば何となく色合いに欠けてる気もする。
どうでもいいことなのだが。
鍋の出来を見守るより、彼の行動の方が面白い。
真ん中にでんと乗っている二尾のエビが買えなかったから、どうも収まりが悪いとでも思ってるのだろうか?
私には理解できないけど。
高陽さんはしきりに、エビのことを気にしていた。
エビありませんね、と言ってパニックに陥れようか?
冷凍庫にある、ピラフに入ってるような小エビでいいんじゃないのと、彼をそそのかそうか?
「エビはなくてもいいですよ。
そこに何か乗せたいなら、タラの切り身とか、鶏肉でも、肉団子でも、何でもいいから乗せればいいと思います」
高陽さんが顔をあげて私を見る。
目からうろこが落ちたっていう顔だ。
「そうなのか。
味が変わってしまうではないか」
私は、まじまじと高陽さんの顔を見つめる。
「具材なんて何でもいいんですよ。
鍋に決まりなんてありませんから。
それより、美味しそうな匂い。美味しければいいじゃないですか」