あの夏の空に掌をかざして
『サチぃぃぃ！黄昏時までに帰っておいでと、魔物が出るからと、あれほど言ったのに！！！』


「！」


　その一言で、あたしはハッとした。


　ーーー道の奥から魔物が出てきて、その女の子は２度と家に帰ることはなかったらしい。


　じゃあ、あの本の内容は本当だったってこと！？


　あの女は、あの本に出てくる、伝説のはじまりの話の中の、女の子の母親だったのだ。


「じゃあ、サチさんが、その娘…」


　その時、あの母親は、急に大人しくなり、ポツリポツリと、懺悔を口にした。


『ごめんねぇ…あたしが、あたしが２年前、もっと……』


　あれが起こったのは、２年前…。


　目の前の母親が突然、悲鳴をあげはじめた。


『ひっ！な、なに！？いや、いやぁぁぁぁぁ』


　見ると、母親の傍らから、あの淡い光が突然灯り、徐々に、その体を包み込んで行く。


「っ！伝説のはじまりだ……！」


　あたしがそう言うと、母親の体は光と共に、綺麗さっぱり無くなってしまった。
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