うちの執事は魔王さま

木々に囲まれた細い道を抜けると小さな広場があった。

噴水があり、オシャレなベンチがあり、そして薔薇のトンネル。

どこかで見たような豪華な庭のような小さな小さな広場。

3人でちょうどなんて思えるほどの広さだ。

そこには、1人の中年男性。

オーダーメイドで作ってもらったのであろうスーツに、髪には少しの白髪が混じっている。

ここまでみれば、どこかの社長のおじさんだ。だが、しかし。

「ルっナちゃぁぁん!!!会いたかったよぉぉ」

こちらの顔を見た瞬間のあの緩みきった顔。

そしてその顔で抱きついてくる。

「ぐ、ぐるじい……父さん…しぬ…ギブ…」

「旦那様、そんなに抱きしめられると姫が死にますよ」

もうお分かりだろう。

このどうしようもないおじさんは、私の父。

月緋裕也。『月緋コンポレーション』の取締役社長で世界中にある会社や傘下組織を仕切っている。
だから、滅多に会うことはないのだが。

「一体、なんでまた…」

やっと父から解放されて呼吸を整える。

「ルナちゃん、パパと久しぶりに会うのに嬉しくないの…?」

目を潤ませて言う。

「いい歳したおじさんが娘に抱きつくのもどうかと思いますがね」

笑顔で峰岸は言う。

「一介の執事は黙っておきなさい。これは親子の再会だ。それに君まで呼んでいないんだがどうしているのかね」

「姫の執事ですので。お供するのは道理でございます」

「そうか、ならその娘の父である私の命令だ。どこかに消えなさい」

「無理です。貴方にお仕えしているつもりは全く、毛頭、これっぽっちもございませんのでその命令は聞けません。つーかまだ死んでねぇのかクソ野郎。さっさっとの垂れ死ね」

「ほう、この私に喧嘩を売っているのかね、無駄に顔がいいイケメンめ」

いつもこの2人が会うとこのように喧嘩をする。

大抵の場合、父が来る時は、峰岸はどこかに行くのだけど…。

「2人とも落ち着いて…。それよりもどうしてお父さん帰ってきたの?お仕事がひと段落したの?」

「あぁ、かわいい娘よ。そんなにもパパの身を案じてくれるのかい?チューしてあげよう!ほら、照れることは無いよ!こらこら逃げなくていいんだよ!ほらおいで!」

あまりのしつこさに峰岸に訴えかける。

彼はため息を1つこぼすと片手で父の襟元を掴んだ。

父は、その場で足を動かして尚も迫る勢いだ。

「いい加減、落ち着いてって言ってんでしょ!しつこい!」

渇いた音が広場に響き渡った。

これこそ、執事と主の阿吽の呼吸ではないだろうか。

「さて、クソジジイ…ではなく、旦那様も落ち着かれたところでティータイムにでもいたしましょう。時間も丁度いいですし。それに積もる話もあるでしょうから」

峰岸がちらりと父の方を見た気がした。


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