うちの執事は魔王さま
「さぁ、姫。こんな奴はほっといて参りましょう」
いつになく、スッキリとした爽やかな顔をしている峰岸に促され車に乗った。
すると直ぐに車は発進された。
「ねぇ、みね。あの人、私のこと知ってたよね?私、記憶がないんだけど」
「そうですね、姫は幼かったですから忘れているのかもしれません。お隣の結城家は、平安時代から続く由緒正しい陰陽師の家系にございます。今は、あおい様のお父上、結城正徳様が頭目で仕切っておられますが、次期頭目は間違いなくご子息の彼です。
あおい様と姫は、5歳まで一緒に遊ばれてました。あの頃はあの野郎…ではなく、旦那様も家におられた頃ですのでお二人の仲つむまじい様子をみて親の間で勝手に許嫁として決めました。
…ほんとにいらねぇことしかしねぇな、あの男」
「みね、言葉遣い」
「申し訳ありません。つい口が滑ってしまいました」
峰岸の言ってることが正しければ、さっきのあおいという彼と私は幼なじみで本当の本当に許嫁ということになる。
「あまり驚かれないのですね」
ミラー越しに刺さってくる峰岸の視線。
その視線に合わせてみるもすぐに逸らした。
「…私も令嬢だからね。許嫁のひとつやふたつあってもおかしくはないと思ってたわ。とは言っても、まだ少し混乱はしてるけど」
「そうですか」
澄み渡った空を窓から眺める。
非日常的な生活を送っている自分と比べ何時もと同じように青く、光り輝くそれを少しばかり羨ましいと感じた。
車で数時間。
あれから話す話題もなく無言のまま執事が付き合って欲しいという目的地にたどり着いた。
「どこ?ここ」
「みてお分かりになりませんか?公園ですが?」
執事の言う通り、たしかに公園は公園。遊具とかがあるような公園ではなく、散歩道としてよく使われるような公園である。
「どうして、ここに?」
「私も不本意ながらお連れいたしたのですが……まぁ、こちらへ」
腰を折って白い手が指し示す方向には細い道。
一体どこにつながっているというのだろうか。
不安に思いながらも其方に足を伸ばしていく。
一歩後ろには、彼が着いてくる。
「不本意ながらって言ったよね?どういうこと?」
「その人物に会えばお分かりになられるかと」
『会えば分かる』『不本意ながら』あぁ、なるほど、あの人か。