先生、僕を誘拐してください。
「店長?」
「うちの馬鹿は、考えてなしというか短絡的な性格と言うか……。君に失礼をしなければいいのだが」
「大丈夫ですよ」
自転車置き場の方へ向かおうとすると、言いにくそうにももごもおと口が動いた。
「うちの息子も、中学までは陸上だったんだ。だから、きっと蒼人くんを誘ったんだろうが、蒼人くんが陸上に戻りたかったら、足枷にならないだろうか」
「……大丈夫ですよ、うちの弟も村田くんみたいに、お調子者で短絡的に見えるけどしっかりしてるんです。だから村田くんもきっとしっかりしてますよ」
笑って、重い雰囲気を蹴散らす。
すると店長は、悩んでいた顔を漸く緩めてくれた。
「では、今度こそ失礼します」
「ああ、お疲れ様」
ただ、――この町はやっぱり息苦しいのかもしれない。
あの事故、死亡者はうちのお父さんと運転手と、突っ込んできた大学生の女性だけ。
そんなに大きくない町だし、知らない人はいない事故。
そのせいで社会に出た私を、あの人たちはまだ可哀想と扱うなら……どこか違う街で就職したい。
御母さんのことを考えるとそれは難しいのは分かってるけど。
「……遅ぇな」
「奏?」
自転車置き場に、汗だくの奏が自転車に跨って立っていた。
「どうしたの?」