先生、僕を誘拐してください。
「本当のことでしょ」
「……今日は俺が作るっ」
さっき私の料理が良いとか言ってたくせに、そんなこと言っちゃうんだ。
「どうぞお好きに」
「出来るまで、一階に降りてくんなよ」
「わかりました!」
少し怒って見せたけれど、好都合だった。
これで電話しても気付かれないだろう。
いや、万全の態勢で防音のピアノがある書斎にしょうか?
「何作るつもりなの?」
「うるせえ」
声が出るようになっても、本音を言わないんだから声や言葉が無駄になる。
――また今夜も私の部屋に君の分身が現れてしまうぞ。
「あのさ、奏」
家に到着し、車の横に自転車を置きながら、一度だけ息を吸って勇気を出して聞いた。
「もし私が、奏の本音が見えるって言ったらどうする?」
奏が大きく目を開く。そして唇が微かに震えたのを見逃さなかった。
「は。嘘だね」