先生、僕を誘拐してください。


「偉そう」

緊張していたのか、冷房の下に座っているくせに、額から汗が滲んで顎まで伝う。

古い音楽室だから冷房の効きも悪いからかもしれない。
けれど、隣の奏が私に対してそんな風に感情を出してくれるから私は普通の学生みたいに心が弾んだ。
さっきまで大量殺人犯を例えて物騒なことを言っていたのに、呑気なものだ。

誰かに憎しみをぶつけたら楽になった、なんてきっと奏は聞いたら嫌な顔をするだろう。

昨日までご飯の味がしなかった。今日は朝倉くんがご飯の味がしないのかもしれない。

「いやだね。……私、性格悪い」

「悪くねえし」

「悪いよ。隠してるだけ。本音はきっと皆、眉をひそめてしまうぐらい醜い」

奏の隣から立ち上がり、たった数日来なかっただけでほこりをかぶった鍵盤を指先でなぞる。


「違うよ。俺がお前の本音が見えてるって言ったら信じるか?」

「……どうだろうね。見えていたらきっと私を博物館に誘わないと思うから」

「見えてたら?」

「うーん。二度と会いたくないかも」

こんなドス黒い感情、誰にも見せたくない。
お金が大事。先生が暑苦しくて嫌い。
加害者をかばう朝倉くんも嫌い。

「……まあ、そうか」
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