先生、僕を誘拐してください。
お父さん?
『もし、……もし死ぬ前に、何か皆に残せれるならば少しだけでいい。奏くんと美空にお互いの気持ちが分かれば傷つかないのに。お父さんはそう願ってしまったんだ』
消えていく。シャボン玉みたいに、触れば消える儚い声だった。
『奏くんの声が聞こえたんだろう? だったら奏くんにも、だ』
――奏くんにも、美空の声は届いているよ。
お父さんの声が遠のいていく。行かないでと手を伸ばすと微笑んで涙を流していた。
『愛してるよ、美空。お母さん、蒼人』
愛してるなら行かないで。
大声で叫ぶ。なのに私の声は、音にならないまま消えていった。
「美空!!」
耳が痛くなるような大声に思わず目を開けた。
お父さんは何処にもいなくて、肩を抑えて蹲っている朝倉くんと、保健室へ走っていく敦美先生と、泣いている真由の姿がった。