先生、僕を誘拐してください。


「……夢?」
「大丈夫!? 頭打ってないよね!? 二階から見てたの。冷や冷やした。朝倉くんがあんたを突き飛ばしたから、頭を打ったのかもしれない。動かないで」

目を動かすと、上から落ちた看板が、真っ二つに割れていた。

その木が当たったのか、朝倉くんが蹲って片目をつぶって痛みを抑えていた。


まるで白昼夢のような夢。

でも夢じゃなかった。あれはお父さんの声だったから。

「行かなきゃ……」

「動かないでって、美空」

立ち上がった私は、校舎へ踵を返そうとして立ち止まる。

走ってくる奏を見て両手を、伸ばしていた。

「看板が落ちたって!?」

奏が走ってくる。

その奏を私は抱きしめた。

良い子であろうと頑張ってる奏を何も気づいてあげられなかったことに、たった今気づいたのだから。


「奏。……奏」
「どこか、痛いところねえの? 保健室、保健室に」
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