先生、僕を誘拐してください。
私の本音を知ってしまった、声を失った、贖罪のように良い子になろうと心を削って続けていた学校のすべてのことから、私は奏をさらう。
誘拐する。
これ以上奏を壊さないように。
本音も言えなくなって壊れかけていた奏を誘拐する。
「……どこ行くの?」
奏は最初は驚いていたくせに、電車に乗るころには笑っていた。
「博物館。カナリアを見に行こう」
「急だね」
「うん」
電車のドアが閉まると同時に乗り込んだ瞬間、奏は私に抱きついた。
「しんどかった」
「……うん」
「ありがとう、美空」
お礼を言うのは私のほうなのに、奏は私を抱きしめた。
何もかも無責任に放置したのに、奏は晴れ晴れした顔で私に抱き着いた後、少しだけ泣いた。