先生、僕を誘拐してください。
さっき本音くんには言わなかった、言葉。
その言葉に、奏はポケットから携帯を取り出すと何か打って、私に送信した。
「ちょっと」
手元に携帯が無かったので確かめられない。雑巾を洗面所の端に広げて置くと、私は再び二階に上がる。
携帯の通信アプリには、そっけないメッセージが入ってた。
『喉が気持ち悪いから話さないだけ。落ちついたら、話しかけてやるし』
強がった文面を見て、お腹がよじれるかと思った。
さっき、君の本音は逆を言っていたよ。
私に失望されるとか、怖がっていたのよ。
それなのに、強がって本音を隠して、面白い。
そしてちょっとだけ可愛いと思ってしまった。
「あはは、馬鹿だねえ」
『早く落ち着いてよ。で、一緒に学際で歌ってよ』
私のメッセージに、既読はついたけれど返事は来なかった。
今年は一緒の高校なんだから、私がピアノを弾いたら奏は歌ってほしい。
カナリアじゃなくてもいいよ。無視されるよりは、全然いい。
ただ、――奏の本音くんは私に失望していた。
だから、この本音は誰にも言わない。誰の前にも現れないように祈るしかない。