先生、僕を誘拐してください。
それは前に聞いたから、二回も言わないで。
これ以上は、奏の顔がどんどん不機嫌になるのでやめて、コップを三人分取り出し麦茶を注ぐ。
二人も慣れた手つきでお菓子や布巾やら用意して、ノートと教科書を取り出した。
勉強すると言うのは本当だったらしい。
「まあ、姉ちゃんは関わりたくないならもう関わらない方がいいんじゃね? 超顔がブスだよ」
「失礼ね!」
「――関わらないくいいに決まってる」
上靴を脱いで、勝手にビニール袋を取り出し、入れながらも不機嫌そうに奏は言う。
「俺が逆に近づいてるんだから、美空が関わる必要はない」
「お、もう喋るの? マスクはいいのー?」
ニヤニヤからかう蒼人を一瞥しつつ、奏はこっちを見る。
真っ直ぐに睨みつけるその顔は、まだ本音を隠している。
やっぱり本音って人には全て見られたくないわけで、だから隠れてるわけで。
奏のその顔からは、誰にも見せないという強い意志が感じられた。
「そういや母さんは?」
「病院って。今日もリハビリ日になったって、書き置きしてる」