先生、僕を誘拐してください。
ピアノの演奏を辞め、立ち上がって窓辺へ歩いて行く。
カーテンの向こうは気付けばうっすらと日が沈みだしていた。
その窓の中心に、カーテンが揺れるたびに奏の本音は現れて首を振る。
『うん。僕はもしかしたら、朝倉一を殴る――いや、殺してしまうかもしれない』
「こ!?」
可愛いあどけない奏から出た言葉に、思わず口を押さえた。
物騒な言葉に、思わず二歩下がったら、ピアノの足に当たって止まる。
けれど、奏の顔は真剣でとても思い詰めている。
「なんで?」
『俺のことを睨んだことだけじゃない。あいつは、あの時――』
「奏?」
『それも、先生には言えない』
すうっと音もなく消えながら、彼は泣き出しそうな顔を私の瞳に焼き付けていく。
本音が本音を言えないなんて、どういうことなのだろうか。
言ったら私が傷つくの?
「姉ちゃん、そろそろご飯作ってー」