先生、僕を誘拐してください。
「はあ!?」
「野菜俺たち切るから、混ぜたり、オニギリ作ったり。今日のメニューは焼きそば」
ノックもせずに入ってきた蒼人に気付いて、消えてしまったのだろうか。
私は結局まだしっかりと練習できなかったので楽譜だけ手に持って、リビングへ降りる。
「ねえ、あんたって大学行きたい?」
「なに急に」
「真由と同じ大学。行きたい?」
「んー」
少し考えた後、なぜか頭の上で大きく手を交差して『×』を作った。
「え?」
「勉強好きじゃねえもん。俺、めっちゃ頭悪いしい。大学行きたいって思わないかなあ」
「推薦あるらしいじゃん」
私の言葉に何か察したのか、手を下ろして代わりに口に手をあてて本音を隠すみたいに笑った。
「姉ちゃんが行けよ。頭いいじゃん」
「私はお金に生きるの」
「なんだよ、それ」
お互い、気持ちを探る様な遠慮した言葉の往復に黙りこんだ。
今こそ、相手の真実が見えたらいいのに。
「敦美先生のことを聞いたってことか。さっき朝倉一って人が何を言ってるか理解できなかったんだよね。今、繋がった」
「何って言ったの?」
「塾おいでって。あと、なんかごにょごにょって」