先生、僕を誘拐してください。
「朝倉一が通ってる塾ね」
「あそこ、その人の親が経営してるんだろ?」
「そうなの?」
知らなかった事実がボロボロと出てくる。
「でもまあ、うちから一番近い塾だけど、母さんはあそこわざわざ遠回りして、見ないようにしてる場所だから注意。行かないし」
蒼人は少し考えてから私の顔を見る。
何を言うのかと私も身がまえたのに、帰ってきた言葉は拍子抜けするものだった。
「あのさ、焼きそばに乗せる卵って半熟の目玉焼き? それとも生の卵?」
「……何」
「母さんは蒲鉾いれるけど、俺たちは野菜と肉以外切ってませんので」
なんだ、その他人行儀みたいな白々しい言い方。
言いたいことはお互いいっぱいあるけど、触れないでってオーラを出して我慢してるのに。
我慢できないのか知らないけど、侵入してこないで。
「あっそ。じゃあホットプレート出して温めといて」
「はいはい」
三人でホットプレートで焼きそばを焼いていると、ちょうどお母さんが帰ってきて、よそよそしかった空気が和らいだ。
その夜は、窓辺に奏は現れなかった。