先生、僕を誘拐してください。
今しかない自由。
今しか悩めないこと。
それは私の頭でっかちな脳に大ダメージを与えてくる。
『運動以外は、先生の意見に賛成しときます』
『おまっ 若いんだからもっと運動しろ。どうだ、木下と一緒に入ろう』
『お断りします』
私の生意気な言葉に、敦美先生は一度も怒らなかった。
真由を部活中に激励している時と全く違う顔。
ああ、先生も手探りで迷っていて、それでいて私との向きあい方に悩んでいるんだと理解した。
理解したら、それほど嫌な存在ではなかった。
五日間のテストは記憶がほぼないけど、敦美先生のその顔だけは五日間忘れられなかった。
「美空―! 数学の最後の問題、解けた? 証明のやつ!」
職員室で求人を見るか帰るか、悩んでいると、後ろから体操服に着替えた真由が駆け寄ってきた。
「あってるか分からないけど、一応」
「すげー。難しいかったのに。やばいわ、あれー」
「私はアンタの方がヤバいわ。今日30度越えるってよ。今から走るの?」
「うん、先生なんて一番に運動場にテント立てて、水巻いてる。一年生なんて慌ててドリンク作ってるみたいだよ」