先生、僕を誘拐してください。
「奏の声変わりお披露目会だよ。おもいっきりやっちゃいな」
「……好き勝手言いやがって」
パコンと良い音がして、頭を叩かれてしまった。
でも奏も意外と前向きなんでさくさくと決まってよかった。
「ちょっとピアノ最後まで弾いてみていい? で私もバイト行くね」
「もちろんです。お願いします」
楽譜を見つつ、指を鍵盤に置く。
勉強は結果がでるのが好きだったケド、ピアノもそう。
練習すればするほど、美しい曲を自分の指で奏でられる。
だから、好き。
こんな難しい楽譜が自分の指から奏でられるの、すごく好き。
だから、弾く。
「未来―。ごめん、手伝って―」
廊下から後輩二人の声がするので私と奏も顔を其方へ向けるが、未来ちゃんが手を振る。
「私だけで大丈夫なんで」
そう言い残し、音楽室から出ていく。
なので、私は最後まで一応弾くことにした。
奏は私の後ろに回り込み、椅子に手を置きながら聴いている。
ちらちらと動かす視界の隅に、一年生の青色の体操服が見えるのは、少し不思議な気分だった。